「三密」、今この言葉を知らない人はいないと思います。2020年の流行語大賞にも選ばれたこの言葉は密集、密閉そして密接、言うまでもなくコロナウイルス感染対策として避けるべき3つの条件ですね、それを示しています。調べると2020年の3月ごろ専門家会議が国民向けに「換気の悪い密閉空間」「多くの人が密集」、そして「近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声」を避けるようにと国民に発信しました。はじめは三密という言葉はなかったようです。日本では人の動きを強制的に止めてしまうロックダウンと称する都市閉鎖は法律上もなかなかできないのですが、蔓延する危険のある行為を特定し避けるべき行為を明確にしたこの専門家会議の発信は素晴らしかったと思います。「出かけるな」というのではなく「こうすると良いよ」という行動モデルの提示ですからね。この提言についてこの時、官邸のスタッフが3つ目を密接とすれば密が三つとなると提案したと言います。簡潔に避けるべき条件を言い表す「三密」、このいわばキャッチコピーは小池東京都知事が毎日のメディア会見で繰り返し周知徹底を呼び掛けたので、すぐに国民全体の間に浸透していきました。
「それ、三密になっちゃうよ」というような会話がたくさん交されたことでしょう。それによって、「そうだね、じゃあ、集まるのをやめておこう」というように行動変容を推進したケースもたくさんあったことと思います。「三密」という言葉がなかったら、「換気の悪い空間で、たくさんの人が集まるし、近接した距離でしゃべるのは飛沫感染を誘発してよくないと言われているから・・・」と長々と20倍以上の長い言葉が必要ですから、語られる機会自体が少なくなりますよね。そうすると行動変容が減って、つまりは、「少しくらいならいいだろう」と今までとおり、大勢で飲みに行っちゃったり、「ライブ、危ないかな」と心の底では思っていても「まあいっか」と出かけてしまったりすることがもっと起きたのではないでしょうか。
さて、もしそうなっていたら、クラスターはもっと発生し、感染者数もより莫大な増加を招いていたかもしれません。感染した場合の死亡率は1%以上あるわけです。つまり「三密」というキャッチコピーによって命を救われた人がたくさんいると思うのです。それは私であったかもしれませんが、誰も気づいていないと思います。でも「三密」という言葉が無かったら命を落としていた人がいた、と思うと「三密」という言葉を考えた官邸スタッフの人、使うことを決めた人に感謝の勲章をあげたくなりました。
この避けるべき三密ですが、実は、1250年も前に日本へ伝わった真言・天台の密教で、それと違う「三密」がすでに説かれていたということを偶然知りました。何とも因縁めく話しなのですが、この「三密」は、いま私たちが避けるべき「三密」とは真逆の行いを意味するのだそうです。人間が根っこのところで持っている駄目な部分、「三業(さんごう)(身業・口業・意業)」に対処する実践法として説かれたのが「三密」です。仏、悟りを得た覚者の身(しん)(身体、行い)・口(く)(言葉)・意(い)(心、思い)のことで、あまりに深いため簡単に説明できないから、身密・口密・意密の「三密」と呼ばれたのだそうです。ここでもちゃんと理解説明しようとすると長くなってしまうので「三密」と呼んだというところが共通で面白く思います。大乗仏教の密教では、何びともしかるべく努力して身・口・意を磨き上げ「三密」を目指せば仏に近づくことができる、として修行を勧めています。現代は「三密」を避ければコロナウイルスから身を守れる。千年の時を経て同じく口にされている「三密」という言葉、どちらも難しい事柄をキャッチコピーとして簡単に行動変容を求めているのです。面白いですね。
もっと詳しく知りたい方は、下記の朝日デジタルの記事をご参照ください。http://www.asahi.com/area/fukui/articles/MTW20200513190350001.html
https://digital.asahi.com/articles/ASNB87KG9NB8ULBJ018.html
生活情報サイト 楽活に掲載された私の記事を楽活の好意により転載しました